ESGとサステナブル投資の基礎知識-目的や手法、規制をおさらい
Saijel Kishan-
投資アプローチの境界が曖昧、SRIやインパクト投資などを再確認
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欧米では「グリーンウォッシュ」などへの当局の監視が厳格化

ESGとは環境・社会・企業統治を巡る問題から派生する重大な金融リスクを考慮した投資およびファイナンスの一手段という認識は浸透していても、大半の人はESG投資と社会的責任投資(SRI)、インパクト投資などをはっきり区別できていないのが実情だろう。
各種投資アプローチの境界が曖昧になっている背景には、ESGの解釈が人によって千差万別ということが一因としてあるが、その曖昧さこそがここ数年でESG投資の急速な成長を促した面もある。
一方、市場が成長するにつれて、ESGを誇張した金融商品を提供する銀行や投資会社を取り締まる規制当局による監視の目も厳しくなっている。
基礎知識の抜粋は以下の通り。
ESG投資の目的
ESG要素が含まれる投資戦略で最も広い意味での総称は、サステナブル(持続可能な)投資と言える。モーニングスターの調べで世界的な資産規模が2兆7000億ドル(約370兆円)に上るサステナブル投資の目標について、支持者は社会的インパクトの達成や、個人的価値との協調、あるいはリスクマネジメントにあるとしている。もちろん同時に収益の確保も目指している。
ESGの起源
「ESG」というアルファベット3文字の呼び名は、2000年代半ばに誕生した。英国の法律事務所が、05年に国連環境計画金融イニシアティブ(UNEPFI)向けに作成した報告書で、財務分析にESG要素を活用することと、投資家の受託者責任は両立し得ると論じた。ESGデータを組み込むことは、気候変動や労使問題、サプライチェーンにおける人権問題、企業統治の不備による訴訟などの重大な金融リスクの回避に資するという考え方だ。
しかし、時を経て、再生可能エネルギー関連株の保有というありきたりな投資から、ロシアなど独裁国家の石油関連企業や資産が組み込まれているベンチマーク指数連動のファンドといった考えられないようなものまで、ESGラベルが貼り付けられるありさまになっている。
ESG投資の規模
ESG投資としての判断基準によって試算が異なるが、ブルームバーグ・インテリジェンスによると、資産規模は25年までに50兆ドルと、足元の約35兆ドルから拡大する見通しだ。国際組織のGSIAによれば、18年には30兆7000億ドルと、16年の22兆8000億ドルから増加した。
ESG投資手法
これまでのESG人気は、より良い世界の創造に積極的な役割を果たすという信念に基づいている面がある。資産運用者側がそうした生ぬるくて曖昧な感覚を利用して、金もうけの機会を探っているといった実態をごまかしているという批判もあるが、以下にサステナブル投資に一段と踏み込んだ手法の例を挙げる。
- 倫理的および価値観に基づく投資:政治的、宗教的、または哲学的な信念や価値観を反映させ、企業を投資対象として除外するか組み入れるかを投資家が判断できる幅広い戦略。初期には、クエーカー教などの宗教団体が酒類や兵器、賭博などに関連するものを投資対象から除外した例がある。1965年にはスウェーデンの教会関連団体が、倫理的投資信託会社を初めて立ち上げた。米国では71年にパックス・ワールド・ファンドが設立された。
- SRI:反ベトナム戦争を掲げる抗議活動などを背景に、投資家グループが80年代と90年代に社会に害を及ぼす企業を投資対象から除外するだけではなく、商慣行の改善に努めている企業に投資することで「善行」を模索。環境に配慮したクリーンテクノロジーの取り組みに従事している企業も投資対象になり得る。
- インパクト投資:SRIが主に上場企業を対象にしている一方、インパクト投資は個々のプロジェクトを重視。持続可能な農業の促進や手頃な価格の住宅を提供する企業など、測定可能な特定の成果に目を向けたニッチな戦略。
- システムレベル投資:まだ発展途上にある戦略。ESG投資が実質的な成果につながっていないという批判が高まる中で、注目が集まりつつある。例えば気候変動要因が及ぼす影響について、エネルギー関連や保険関連の株式のほか、国債や外国為替などのポートフォリオ全体を精査。その上で、システムレベル投資に携わる投資家が協力し、新たな業界基準の設定やデータの共有、政策変更の働き掛けを通じて企業の経営慣行の改善を推進する。
規制当局の動き
今や資産運用会社や金融機関が、投信や複雑なデリバティブ(金融派生商品)などについて、広くESGラベルを掲げる中で、欧米の規制当局は誇大にESGを強調する企業の取り締まりに乗り出している。5月にはドイツ当局がドイツ銀行の資産運用部門に対して、環境配慮を装う「グリーンウォッシュ」疑惑で家宅捜索を行った。6月には、ゴールドマン・サックス・グループの資産運用事業がマーケティング資料で約束しているESG基準に一部の投資が反しているかどうかを巡って米当局が調査を進めていることが明らかになった。
規制の進捗(しんちょく)状況
米証券取引委員会(SEC)は5月に、ESGファンドに投資内容を正確に開示させることを目指す新規制を提案した。一部のファンドでは投資先企業の温室効果ガスの総排出量開示が求められる可能性がある。欧州ではサステナブルファイナンス開示規則(SFDR)が導入済みで、金融商品を環境への配慮を示すグリーン度合いを基に分類するよう求められている。
原題:
An ABC on ESG and Sustainable Investing’s Flavors: QuickTake(抜粋)