質の悪い炭素クレジット、グリーンウォッシュ助長-座礁資産リスクも
Gautam Naik、Natasha White-
炭素削減効果に結び付いているクレジットは6%のみ-研究結果
-
欠陥を示す「確かで信頼できる証拠」がある-ケンブリッジ大教授
環境配慮に関する主張を裏付けるためカーボンクレジットに頼る企業は今、そうしたクレジットの大半が目的に合っていないという「確かで信頼できる」証拠を突き付けられている。学術誌「サイエンス」に掲載された研究が指摘した。
研究ではペルー、コロンビア、カンボジア、タンザニア、コンゴ(旧ザイール)での18件のカーボンオフセットプロジェクトを分析。潜在的な8900万のクレジットのうち森林保全を通じた炭素削減効果に結び付いているのは、わずか540万で、割合にすると6%にとどまることが明らかになった。6000万超のカーボンクレジットが、森林伐採をほとんど減らさなかったプロジェクトから創出されている。
同研究の上席著者でケンブリッジ大学の環境経済学・公共政策学の教授、アンドレアス・コントレオン氏はインタビューで、「こうしたカーボンクレジットは、グリーンウォッシュをもたらすのではないかという疑念がある」とコメント。「われわれは今、それらのオフセットのプログラムに欠陥があることを示す確かで信頼できる証拠を手にしている」と述べた。
カーボンクレジットは、風力発電や植林などのプロジェクトにより大気中から削減・除去された二酸化炭素(CO2)を表し、削減単位1トンで認証・発行される。購入者はクレジットを取引したり、自らの排出量を相殺するために使用したりすることができる。
研究結果はカーボンオフセットに絡む「座礁資産」(不良化する恐れのある資産)のリスクを浮き彫りにしている。また、そうしたクレジットに依存する企業のカーボンニュートラルに関連した主張にも、疑問を投げ掛けている。
「REDDプラス」と呼ばれる森林保護プロジェクトは、もはや排出されない炭素が反映されたクレジットを創出する。過去の森林減少やそれに伴う排出量の推移などを参考に、森林の減少や劣化を抑制した場合の排出量を評価する仕組みだ。
「サイエンス」の研究によると、民間主導の同プロジェクトでは2021年、13億ドル(約1900億円)に相当する計1億5000万のクレジットを発行。研究の初期の草稿は1月にオンラインで公開された。
基準を設定する機関のVERRAが公表しているデータを見ると、エネルギー企業の伊ENIや仏トタルエナジーズ、航空会社の英ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)、スイスの食品大手ネスレ傘下のネスプレッソなどが、同プロジェクトから創出されたクレジットを購入している。
ENIは500万を優に超えるクレジットを「REDDプラス」から購入。これは約90万世帯の年間の電力使用量に相当する。ENIの広報担当者は、調査結果を強く否定しており同社のカーボンクレジットは最高水準の管理下にあるとした。
BAは、さまざまな気候変動を巡るイニシアチブに取り組んでおり、持続可能な航空燃料への投資など、50年までに排出量を正味ゼロにすることを優先しているとコメント。ネスレ・ネスプレッソはカーボンオフセットへの投資から脱却しており、温室効果ガス排出量の削減とバリューチェーン内の炭素除去によってネットゼロを達成する方針だと説明した。トタルエナジーズはコメントを控えた。
ここにきてカーボンクレジット取引最大手のシンガポールのトラフィグラ・グループは、森林プロジェクトの調査結果を待つ間、「REDDプラス」のクレジットの引き渡しを停止した。
認証機関は不当と主張
調査対象となった18のプロジェクトは21年11月時点で、6200万のカーボンクレジットを発行。このうち1460万については、個人ないし組織による温室効果ガス排出量の相殺に使われてきた。最終的には「これらのプロジェクトは、森林保護で実際に削減した量の3倍に近い炭素を相殺するのに使用された」とコントレオン氏は指摘。「依然として4700万を超えるクレジットが市場に残っている」と話した。
「サイエンス」が詳述したカーボンオフセットは、VERRAが認証した。VERRAはサンプル数が少ないため、調査の方法論について「重大な懸念」があるとしている。
プロジェクトのうち約4分の1しか調査されていない以上、研究の結論を全てに当てはめるのは不当だとVERRAは主張。ウェブサイトの声明で「われわれは今の仕組みに改善すべき点があるのを認識しており、継続的な進化の促進に注力する」とした。
【ESGウイークリー】を購読するには該当記事の冒頭にあるボタンを押して登録するか、NSUB ESG JAPANの該当する購読ボタンをクリックしてください。
原題:Junk Offsets Are Feeding Wave of Greenwashing, Study Shows (2)(抜粋)